逃亡者 中村文則

本に関してのブログは初めてです。

私は本というメディアは、読む側の自由度がかなり高いと思っています。音も映像も画像すらないので当然といえば当然ですが。

それゆえ、作者の意図した読み方と異なる読み方をしてしまう事が多々あります。同じ本でも感じることは人それぞれだと思っています。それは間違った事ではないし、誰かに咎められる事でもないと思います。むしろ本というメディアの面白さの一つでしょう。

特に最近の小説は読み手に物語の終わりを放り投げるようなものが多いと思います。つまり、完全な完結をせずに終わってしまう小説が多いという事です。作者は物語の骨格のみを読み手に与え、読み手が物語を完全なものにする。といったよう感じです。わざとに読み手に自由を与えているというわけです。

 

少し長くなりましたが以下に本の感想を書きたいと思います。

初めての本についてのブログなので始めに私にとっての本とはどういうものかを書かせていただきましたが、今回の逃亡者は作者の意図が明確で、ダイレクトに伝わってきます。難しい小説ではありますが、読み手の解釈は似たり寄ったりだと思います。

 

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私はこの小説を読み切るのに約2ヶ月かかてしまいました。様々な理由がありますが、一番の要因はこの小説が歴史では隠れキリシタン第二次世界大戦。現代では政権批判にSNSまで、多くの問題を扱っている為だと思います。正直、読書をしたというよりは勉強をした。というような感じです。とても500ページには収まらないような内容が収められています。そのため内容が濃密で、気軽に読む事もできず、読みきるのに時間がかかってしまいました。

 

この小説の内容は、第二次世界大戦中の日本やキリスト教を禁じた頃の日本を振り返り、現代でまたその歴史の片鱗が現れ始めていることに私たちは危機感を持たなければならない。といった内容になっており、その片鱗に争う主人公が描かれます。そして終盤にこんな言葉があります。

君達は、このまま敗北し続けていくだろう。人権や多様性と言いながら、敗北していくだろう。黒人達のために立ち上がった、キング牧師の言葉を知っているだろう?『最大の悲劇は、悪人達の圧政や残酷さではなく、善人達の沈黙である』……君達は善人達の沈黙に負けるだろう

 小説の重要な部分だと思います。

とても耳の痛い話です。私自身、人権や自由は大切なものとは分かっているものの、何も行動しない多くの人々のうちの一人だからです。

そして私のような人々のせいで、世界は徐々に自由を失っていくのでしょう。

 

私たちは行動しなければならないのでしょう。

私は何ができるでしょう。 あなたは何をしますか?

 

 

逃亡者

逃亡者

  • 作者:中村 文則
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 単行本